先日ご飯を食べに行った按田餃子さん。そこでの食事が日々の自炊の仕方を考えるきっかけを与えてくれたのでご紹介したいと思います。

按田餃子とは

代々木上原と二子玉川に店舗をかまえる料理店。ミシュランガイドにビブグルマンとして掲載されたこともあるお店です。大衆食堂的で、「助けたい、包みたい、按田餃子でございます」がキャッチコピー。

テレビでなんとなく見たことがあったような。面白そうな2人が偶然出会ってなんとなくはじめた餃子の不思議なお店。そんなことが頭の片隅に残っていただけでお店の名前までは記憶していませんでした。

先日、久しぶりに会う友人のおすすめのお店というので、一緒に夕飯を食べたことが私と按田餃子との出会いです。人気店だと聞いていましたが、二子玉川の方はわりと入りやすいと思います。

料理名のネーミングセンスも気になったところですが、メニューで気になった料理や飲み物をあれこれ注文してみました。実際に食べてみて、使用している食材やスパイスの使い方にとても興味を持ったので、何度か足を運びたいお店だと思いました。ちなみに、スパイスを使用しているといっても辛味が強かったりクセの強い味というものではありません。ほどよく馴染む味です。

スパイスに興味を持ったきっかけ

私は和食も好きですが、異国の料理も好きで、多国籍料理というわけのわからない料理も食べてみたいと思う人です。作る人によって変わる味付けの違いや、その国の風土の違いで料理の仕方が変わるのが面白いです。好き嫌いなくなんでも食べるので、未知の味に遭遇してみたいところもあるのかもしれません。

さて、スパイスに興味を持つきっかけとなったのは、スリランカを旅行した時のこと。海外に行くときは食も楽しみのひとつ。スーパーや市場を必ずチェックします。特に、都会ではない暑い国の市場に行くのは初めてだったので、日本との違いに衝撃をうけたのを覚えています。

日本は衛生面で厳しい国なので、生肉生魚は冷蔵冷凍が基本。しかし、この暑い国では冷やすことをあきらめているのか、豚の枝肉を生のまま常温の場所に吊るしているし、生魚は氷水も張らずに並べられていました。食中毒はおこらないのだろうか、少々心配になりましたが、現地の人たちは元気そうです。

スリランカの市場の様子

そのほか旅行中スパイスガーデンという観光施設に行き、生きた植物を見ながらスリランカでのスパイスの利用法を聞き、食中毒はスパイスと加熱で対処していることを知りました。

「スパイスは乾燥させて小瓶に入っているもの」「冷蔵庫が当たり前」そんな生活を送っていた私にとって、スパイスは味付けの役割とばかり思っていましたが、殺菌作用や肉の臭みをとるための様々な効果があると知りました。

そこで、スパイスがより好きになりました。

たとえば、お肉料理によく使うクローブは粉にして歯磨き粉として使うと歯が白くなるそう。その他、お菓子の香り付けにも、炎症を抑える薬としても使えて万能らしいのです。

按田さんの著書「たすかる料理」

私が食べたランチ

ここで再び、按田餃子の話にもどります。

次は定食を食べたいと思い、再び行ってきました。今回頼んだのは、水餃子定食。海藻湯、豚そぼろ飯、4種類の味が楽しめる水餃子の盛り合わせ。ラゲーライス(きくらげを使ったカレーライスのようなもの)と、かなり迷い、一緒にきくらげジュース(クプアス入り)を頼むことで落ちつきました。

食べてみるとなんだかお家でも作れそうな雰囲気をかもしだしていました。でも、様々な食材を使っているし、お漬物や生姜の千切りがご飯にのっていたり、スープの出汁についても考えると、手間暇がかかっていそうです。どうやって作っているのだろうと気になり購入したのがこの本です。

按田餃子店主・按田優子さん著書の「たすかる料理」/リトルモア

水餃子定食の秘密もしっかり載っており、無理のない、無駄のない料理法について書かれていました。自分の好みに合わせて作るのを推奨しているので分量についてはあまり詳しく書かれていない不思議なレシピ。覚えやすくて、自分なりのアレンジを考える余白があります。

按田さんは料理家でありながら、ちゃんと料理を学んだことはないそうです。
それでも、吉野家でのバイトや、がんを患ったお母さんのために健康を考えて料理を作った経験があります。保存食を研究していたことから、ペルーで料理の仕事をしていた面白い経験もされています。

本の中には「自炊はわがままでいい。台所にしばられず自分らしく」という哲学がにじみでています。自炊に対する感覚が私と似ていて、ほっとしましたし、とても参考になりました。内容的には一人暮らし向けで、自分に合った自炊を見つけるヒントが満載です。節約や食品ロスについて考える上でも役に立ちます。

チチャロンを作ってみた

「節約のためにも健康のためにも自炊が必要だ」と私も実践していますが、常備菜を準備するのも面倒な時がありました。ブロッコリーをただ茹でただけのものもおいしいのだけれど、これは料理と呼べるのか? 自分が食べるだけなのに何故か考え込むこともあったのですが、そんなものでも按田さん的には良いのだそうです。

完成品を保存するのではなく下ごしらえした食材をパーツで持っていたほうが、毎日同じ味のものを食べなくて済む。〜中略〜 その時自分が食べたいと思ったものを食べられる自由さを大切にしたい。

「たすかる料理」p41より

急に予定ができて家で食べられなくなったり、体調によってたくさんは食べられないことだってあります。そんな時、保存が効く状態でパーツを持っておくのが自由がきいて良いそうです。なるほど!

中でも「たすかる料理」に紹介されていたパーツのひとつ、チチャロン。
豚バラブロックを塩茹でしたのち、水気をとばして焼くだけなのですが、言葉で読んでも写真を見てもおいしそうです。常温で5日持ち、いろんな料理に使えるというのです。チチャロンがあるというだけで、「ラーメンにのせたい」「チャーハンに入れたい」「サラダにのせたい」など料理のアイデアがいろいろと浮かびます。面白そうなので試しに作ってみました!

豚バラブロック、チチャロンになる

肉のハナマサにて、大きな豚バラブロックを購入。それをまるごと中華鍋の中にいれ、塩水で1時間ほど水を足しながら茹でました。ゆで汁は一部スープとしてとっておき、肉の一部は角煮のように味付けをしました。残る肉は水気を飛ばし、豚自身の油で揚げていきます。皮がカリッと仕上がりました。そのまま切り分けて食べてみてもおいしいです。

また、肉から出た油はラードとして料理に使うためにとっておきました。無駄なく使いきります。さらに、角煮を作ってフライパンに残ったタレもなんだかもったいない。スープを加えて飲んでみたら、スパイスのおかげか豚の出汁なのにチキンラーメンのスープのような味がしました。小さなうれしい発見でした。

その後、1週間ほどかけてチチャロン、角煮、スープをさまざまな料理に利用していきました。本の中に「海藻と豆は乾物として持っておくと使い勝手がよい」とおすすめされていたので、普段あえて注目していなかったのですが、なるべく豆や海藻を使うように意識しながら。実際に、下に箇条書きしたものを作りました。

  • チキンラーメン風味のスープ春雨
  • スープにネギ、生姜、とろろ昆布を加え、定食の海藻湯を再現
  • 角煮ラーメン (スープはあるので中華麺を加えるだけ!)
  • 薄切りチチャロン、粒マスタードマヨネーズがけ
  • 角切りチチャロン、大豆、ひじきのトマト煮
  • 冷やご飯、ネギ、卵、角切りチチャロンチャーハン
  • 細切りチチャロン、シメジ、菜の花のクリームパスタ
  • ラードを使用した、ちんすこう

チチャロンは水気を飛ばしてあるので、噛みごたえがあり満足感を得られます。チャーシューのようにもハムのようにも、ベーコンのようにも使え便利です。少々豚肉に飽きてしまいそうになりましたが、実験的にスパイスを使いながら色々な味付けを試してみました。

また、豚肉のスープは美味しいのですが、バラ肉を使用していたので、少々脂っぽい感じがありました。しかし、このスープを数日飲み続けていると乾燥肌が治るといううれしい効果もありました。豚の油には「オレイン酸」「ステアリン酸」が含まれており、肌荒れを防いだり保湿する効果があるそうです。

まとめ

私がイラストを描くとき、何かのとっかかりがないとなかなか描けません。写真のモデルさんのポーズが素敵だったり、誰かとのちょっとした会話が頭の片隅に残っていたり、いろいろなパーツを組み合わせてやっと描けるという感じです。

イラストを描く感覚は料理をすることと似ているなとぼんやりと感じていました。料理名が先にあって料理をするというよりは、冷蔵庫にある食材とありあわせの調味料を組み合わせてなんとなく作ったものがおいしかったという発見がうれしいんだということが「たすかる料理」を読んではっきりとしてきました。

食べることは私にとって生活の楽しみではあるのですが、毎日続いていくとたまに飽きてきたり面倒になったりするものです。無理せずに、楽しみながら食べていく方法を考える上でよいきっかけとなりました。按田餃子さん、ありがとうございます。今度は水餃子にもチャレンジしてみたいです。